沈黙は金、雄弁は銀

今日、自分の周りでこの言葉の起源がちょっと話題になったんですよ。
そのときには、軽くググってみて、
『「沈黙は金、雄弁は銀」という言葉は西洋の昔の格言であり、
その時代の西洋では、銀本位制だったので、実は銀のほうが価値があった。
従って、この格言の本当の意味は現代で使われている意味と逆であり、
「雄弁の方が沈黙より偉い」である』
というような論調のサイトがいくつか見つかったので
ほーなるほど、と納得しました。


特にいくつかのサイトでは、古代ギリシア時代の雄弁家デモステネスの言葉が起源だ。
と、あったのでなおさら「なるほど」と納得したのですが



その直後に「待てよ」と思ったのでした。
というのもつい先日
最近の若者は本当にいたか、とカントは言った、皆が本を書いている - 吹風日記
というエントリを読みまして
「すこしググって、調べた気になってしまうことの危険性」
が頭の隅に残っていたからです。


というわけで、調べてみた。
とりあえず、英語中心で調べてみたよ。
すると、この格言は英語では
Speech is silver, (but) silence is gold(golden).
というらしい。と分かった。
んで、Demosthenesとsilence is goldを調べてみると
どうも、関係するようなページは無い。
うーん、どうも嘘臭い。
つーわけで、今度はsilence is goldだけを調べてみると
いくつかサイトが引っかかった。
元々はドイツの格言である。というような記述のあるサイトが多いですね。


で、ついに見つけましたよ
1995年に開かれたthe Conference on European Phraseology (EUROPHRAS '95)
という学会(http://www.europhras.org/english/index.html)での発表内容を
webに公開しているページを
mek.ro
これを、(部分的に)読むと以下のようになります。
この研究者Gyula Paczolay博士曰く

Speech is silver, silence is goldという格言は
オリエンタルな(つまり日本も含む東の方)言語にも似たような格言がみられるので
ひょっとして何か関連があるかもしれない(起源がはっきりしない)のだ。
しかし、そのオリエンタルな言語における格言についての文書が参照できないので
ようわかりません。
さらに、この格言は
(参照可能な文書の中で)初出は、1830年のドイツである(非常に遅いのだ)。
以上。

というわけで、起源はやっぱしようワカランらしい。
言語学者がようわからんというのだから、きっとようワカランのだろう。
で、文書中での初出は1830年のドイツであると。


ここまできたら、この初出がなんという本なのか知りたいのだが、どーもわからん。
で、飽きてきてここで日本語ページをまたつらつらと調べなおすと…
見つけたーーーー
http://1st.geocities.jp/j_eishun/C_Silence.html
トーマス・カーライルの「衣装哲学」が上で出てきた「初出」に違いない。
このサイトから張ってあるリンクをたどるとプロジェクトグーテンベルク
本文が参照できる。
で、原文はドイツ語のようだ。
「雄弁であることはすごいけど、一番すごいわけじゃねえ。
スイスの銘にこうある。「沈黙は金、雄弁は銀」と」
というようなことが書いてある。
で、さらに確認のためにwikiで出版年調べる。
Sartor Resartus - Wikipedia
出版年はもっと後だが、トーマス・カーライルが執筆したのは1831年であるそうな。


つーわけで一年の誤差が謎だが、おそらくコレが初出と断定していいでしょ。
さらに上の日本語サイトさんによると、
この言葉が「スイスの銘である」というのはトーマスカーライルの創作かもしれない
ということが書いてありますね。
この本が、Gyula Paczolayのいう初出であるとするならば、
創作というのは、確かにありえそうだと思います。


この1831年時点で、金と銀どっちが価値があったか?
ということも上のサイトにちゃんと触れられています。
ずーーーっと昔から金のほうが価値があったと。
もちろん古代ギリシア時代でも。
ちなみに当時欧州経済の中心であったイギリスは(1816年より)
既に金本位制を取っています。
で、その後、他のヨーロッパ各国も続々と金本位制に移行していますね。
じゃあ、その前はというと欧州のほとんどの国は金銀複本位制でした。
ところが19世紀頃に銀が大量に取れるようになってきたために
以前よりもさらに銀の価値が大幅に下落してきたと。んで、金本位制移行へ。


結論:沈黙は金、雄弁は銀という格言の初出は
1831年にドイツ語で執筆されたトーマス・カーライルの「衣装哲学」である。
しかし、似たような格言は色々な国で見出すことが出来るので
その起源については現在(少なくとも1995年)までのところ不明である。
そして初出の時点から、「沈黙は雄弁よりエライ」という意味であった。
さらにさらに、大昔から金のほうが銀よりも価値がありました。


おまけ。
時は金なり、はtime is moneyの直訳。
ベンジャミンフランクリンの言葉が起源。


このエントリには間違いが含まれるかもしれません。
皆さん、納得いかない場合には自分で調べましょうね


ところで、上のサイトの追記の年月日が2006/10/12になってるのだが……。
俺の知り合いですか? という疑問が。
どんな偶然やねん。


追記:2006/10/13/0:33
海外の掲示
http://www.phrases.org.uk/bulletin_board/21/messages/660.htmlにて
midrashに 'If speech is silvern, then silence is golden.'がある
と、書かれているのを発見。

midrashのレビ記(Vayyiqra Rabba, Leviticus Rabba)にあるらしい
Midrash - Wikipedia
七世紀中ごろに書かれたものだそうな。
たしかに確認できます。
Leviticus Rabba

If speech is silver, then silence is gold.--Levit. Rabba 16.

レビ記の原典にあたるのはさすがに無理なので
ここでギブアップします……。
むかーしからあったのは確かなようだ